こんにちは!生成AIビジネス事業部で研修開発の責任者を務めている伊藤 優(@yuuito1995)です。AdventCalendarの5日目を担当させていただきます。(今日が誕生日なので、12/5を担当することにしました)
我々は今、生成AIを使いこなすための研修をサービスとして提供しています。
様々な企業に研修を提供する中で感じた、現場のリアルや普及までの道のりを今回はまとめさせていただきます。
この1年の動きについて
ちょうど1年前の2023/12/5、当時別子会社だった株式会社CAリスキリングパートナーズの2023年12月5日の合宿にて、生成AIの研修に特化していこうと決めました。サイバーエージェント社内でもちょうど生成AI徹底理解リスキリング for Everyoneが完了し、全社員の99.6%が受講完了したという結果が出てきたタイミングでした。2月末でのAI Shiftへの統合を経て、そこからちょうど1年間、様々なお客様からご相談を頂き生成AIの研修をやり続けてきました。
※https://www.cyberagent.co.jp/way/list/detail/id=30434
研修をやっていくうえでのスタンスとして、「研修を受けてくれた人が受けて終わり」ではなく、「しっかりその後使えるようになってもらいたい」というところもあったため、お客様の課題を伺いながらカスタマイズして研修を行い、かつできるだけリアルで実施して、その場で様々な疑問に答えていくというところを基本としていました。
その結果、この1年でリアルでの実施だけでも数百名の方に研修を受けていただくことができました。(おそらく、サイバーエージェントグループ内で2番目(CHOの曽山の次)に登壇・講演した1年だったんじゃないかと思います)
そのため、実際に生成AIを使ったユーザーが「実際どこで困っているのか?」「実際に触ったとき、どこで躓いてしまうのか?」を受講者の方々からの声としてリアルに感じることができました。
企業の中で生成AIが使われるようになっていく過程を間近で見ていた身として、改めて言語化しようと思います。
この1年で感じた生成AI活用のリアル
まず前提として、研修を提供するなかで一番多く聞かれたのが「生成AIツールを導入したけど全然使われていない」という声です。研修を行っている企業で「今週生成AI使いましたか?」と聞くと、手が上がるのはだいたい2割くらいです。それ以外の方は月数回使うかどうか?という状況です。
生成AIは世の中の様々なツールに比べると遥かに使い始めやすいツールだと思いますし、このブログを読まれている方からすれば「生成AIなんてそんなに難しいツールでもない」と思われる方もいるかもしれませんが、実際には普及に向けた道半ばだと思います。
これまでの研修から、受講者の状態は大きく4つに分類されるのではないかと感じています。
①生成AI使い始め(社員の30% 生成AIを思いついたら使う)
- 珍しさもあって一回生成AIに触れてみる
- 触れてはみるものの、「実業務に近いテーマ」では触っていない
- なんか色々期待できそう、というので試してみるが、あまり満足いく精度ではない
②幻滅期(社員の50% 月数回触ってみる)
- 試してみて「こういうとき使えるかも?」というヒントは感じても、「自分でやったほうがいい」と感じて使わなくなってしまう
- 「回答内容があまり良くない」という理由で使わなくなってしまう
③活用加速期(社員の10% 週数回ほど定期的に利用)
- 「このとき使えるぞ」という実感が身につく
- 特定の業務に取り組むとき、基本的には生成AIを使うようになる
- イメージが付くようになり、次々に活用アイディアが浮かぶ
④定着期(社員の10% ほぼ毎日利用している)
- あらかた思いつくところではCopilot等の生成AIは使うようになっている。
- 生成AIの技術的な限界を感じ、その進化を待っている状態。
- Dify等の新しいツールを試したり、開発を伴うプロジェクトを推進していきたい
生成AIが普及するための一番のポイントは、どの程度の人が③のフェーズにいるのか?というところだと思います。
一気に活用が進められるきっかけはどこにあるのか?を考えると、一番大きな理由は「結局いつ使えばいいの?」というシーン(ユースケース)が明確にイメージできているか?という点だと思います。
自分自身を思い返しても生成AIをいつ使うかというシーンが明確に見つからないころは「これから生成AIを使うぞ!」と意気込んで使う必要があるため、「利用するハードル」は低いものの、「ページ(サービス)を開くハードル」がいつの間にか上がってしまっていて、「URL探して開くくらいなら自分でやったほうが早いか」となっていました。
明確に僕が生成AIを使うようになったのは、「プレスリリースの骨子を作成する時に生成AIを使うと、素案作成が半分くらいの時間で進められる」と気がついたときです。
<参考:プレスリリースの骨子を作る際に利用したプロンプトの具体例>
# 役割
こんにちは、あなたは広報担当者で、企業のプレスリリースの制作を担当しています。
あなたの所属する企業は研修を通してリスキリングを支援する企業です、
下記の内容をもとに#プレスリリース草案を記載し、その後#フィードバックサイクルを実行してください
# プレスリリース草案
①タイトル
②概要
③背景
④カリキュラムの構成と詳細
⑤今後の展望
# フィードバックサイクル
制作したプレスリリースの草案に対して、記者の目線からニュースバリューがどこにあるかをまとめてください。
また、ニュースバリューが十分でない場合、プレスリリースの内容に対して追記すべき項目をフィードバックしてください
# プレスリリースのタイトル
<タイトル>
# プレスリリースに含めたい内容
<内容>
その結果、プレスリリースを書くときの業務フローが
①リリースに必要な要素を洗い出す
②プロンプトを活用して骨子を作成
③肉付けや、不要部分の調整
④生成AIで誤字脱字等の校閲
⑤社内確認フローの実施
という流れに変わりました。
このように、生成AIありきの業務フローが自分の中で出来上がったときに一気に活用する頻度が上がりました。
その後、「戦略やビジネス課題の壁打ちにも使えるのでは?」「プロンプトの改善点を洗い出せないか?」など、「この瞬間に使えるかも」と考えるようになり、さらに生成AI活用の幅を広げることができました。
このように、「生成AIを使うユースケースがある」「それを使うための業務フローができているか?」が生成AIを一気に活用できる様になるために重要なことだと思います。
そのため、我々の研修ではこの2つを考えていただける講義・ワークを準備しています。
このような経験を踏まえ、僕の中では企業において生成AIを活用していくためのステップを4つに分けて考えています。
まずは生成AIを利用することのできる環境を用意していくことがステップ1だと思います。社内でツールが導入される・ガイドラインが整備されるなどして、社内で生成AIを使うことのできる環境を整えることがステップ1です。
次のステップとして、各企業の中で生成AIを主体的に使い、「こういうときは生成AIが使える」というユースケースを生み出す事のできる社員を育てていく必要があります。生成AI活用プロジェクトを立ち上げたり、生成AI活用リーダーに向けた研修などを行っていくフェーズです。
生成AIの素晴らしいところは「プロンプトを共有すれば、誰でも自分の環境で生成AIを試すことができる」という点だと思っています。そのため、次のステップでは「〇〇のときに使えるプロンプト」が社内の中で蓄積され、それが社内に展開される仕組みを作っていく必要があります。
生成AIを使う社員が増えれば増えるほど、加速度的にユースケースも増え、それを目にして生成AIを使える人が増えていくはずです。
最後のステップ4で重要になるのは生成AIを使ってもらううえでのUX(EX)です。いかに業務のツールやプロセスの中で当たり前に生成AIを使える状態になっているか?です。
もしかするとSlackやTeamsなどのコミュニケーションツールの中に組み込まれている必要があるのかもしれませんし、多くの従業員がよく使うプロンプトは、もはや業務アプリケーションなどに組み込まれている方が良いのかもしれません。
「いつも通りボタンを押していたら自然に生成AIを使っていた」というような形で使うハードルを下げるとともに、業務アプリケーションや業務フローを生成AIありきに組み替えていくことが最終的には必要になると思います。
最後に
長々と書いてしまいましたが、この1年、生成AIを活用しようとする意欲のある方々に向けて本当に多くの研修を実施させていただきました。
研修を実施するなかで「こんなに前のめりにチャレンジしたいと思う人がいるのであれば日本の未来は明るい。もっと日本のビジネスマンの仕事を楽に、かつ効果的に成果を出せるようにしていかないと。」と思う様になりました。
微力ではありますが、来年以降も更に質の高い研修を提供し、「AIを民主化する」というAI Shiftのビジョンを実現することで、日本の未来に貢献していきます!
最後まで御覧いただきありがとうございました!